令和2年度の芥川龍之介賞において、候補作として選考にノミネートされた全小説の一覧です。
※ 2020年度の直木三十五賞の候補作・受賞作は、【直木賞2020】のページへ!
第163回(2020年上半期)芥川賞にノミネートされたのは、5作品。著者5人のうち、高山羽根子(45)氏は前回に続き3度目の候補入りで、ほかの4人は初の候補入りです。そのうち、石原燃(48)氏は、作家・津島佑子さんの娘で、太宰治の孫にあたります。
そして芥川賞に選ばれたのは、高山羽根子さんの『首里の馬』と、遠野遥さんの『破局』の2作品でした。
は富山県富山市出身で、多摩美術大学の絵画学科を卒業。2009年に『うどん キツネつきの』で第1回創元SF短編賞・佳作を受賞しデビュー。2019年の上半期(第160回)に『居た場所』で、同年下半期(第161回)には『カム・ギャザー・ラウンド・ピープル』で芥川賞にノミネートされ、今回3度目の候補入りで嬉しい受賞となりました。受賞作の『首里の馬』は、沖縄から各国の孤独な人々に映像通話でクイズを出す仕事をしている女性が主人公。首里の資料館、オンラインクイズ、宮古馬と、三つの仕掛けを軸に、SFに根を持つ作者が、読み手から深い解釈をいくつも引き出します。
は神奈川県藤沢市出身で1991年(平成3年)生まれの28歳、芥川賞の受賞者としては初の平成生まれ。父はBUCK-TICKのボーカルの櫻井敦司さん。2019年に『改良』で第56回文藝賞を受賞しデビュー。受賞作の『破局』は、母校のラグビー部を指導しながら、筋力トレーニングと公務員試験のための勉強に励む大学4年生が主人公。新しい恋人ができて順調に見えた日常が、急転する…。遠野さんの作品は登場人物が新鮮、主人公は嫌な男だが正体のつかめない、人間としてアンバランスな感じが魅力と評価されました。
「赤い砂を蹴る」(文學界 6月号) 石原燃 |
「アウア・エイジ(our age)」(群像 2月号) 岡本学 |
芥川賞 受賞 「首里の馬」(新潮 3月号) 高山羽根子 |
芥川賞 受賞 「破局」(文藝 夏季号) 遠野遥 |
「アキちゃん」(文學界 5月号) 三木三奈 |
著者:石原 燃
「お母さん、聞こえる? 私は、生きていくよ。」
画家の母・恭子を亡くした千夏は、母の友人・芽衣子とふたり、ブラジルへ旅に出る。芽衣子もまた、アルコール依存の夫・雅尚を亡くした直後のことだった。ブラジルの大地に舞い上がる赤い砂に、母と娘のたましいの邂逅を描く。
社会派作品で評価の高い劇作家・石原燃の、渾身のデビュー小説!(文藝春秋)
著者:岡本 学
一緒に、塔を探しに行かないか?
生き迷う男。謎を残して死んだ女。…大学教師の私に届いた、学生時代にバイトをしていた映画館からの招待状。映写室の壁に貼られたままの写真に、20年前の記憶がよみがえる。(講談社)
著者:高山 羽根子
この島のできる限りの情報が、いつか全世界の真実と接続するように――。沖縄の古びた郷土資料館に眠る数多の記録。遠く隔った場所にいる友とのオンライン通話。台風の夜にあらわれた幻の宮古馬。世界が変貌し続ける今、しずかな祈りが切実に胸にせまる感動作。(新潮社)
著者:遠野 遥
私を阻むものは、私自身にほかならない――ラグビー、筋トレ、恋とセックス。ふたりの女を行き来する、いびつなキャンパスライフ。28歳の鬼才が放つ、新時代の虚無。(河出書房新社)
著者:三木 三奈
なぜこんなにもアキちゃんが憎いのか──選考会で賛否を巻き起こした衝撃作!(文藝春秋)
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第164回(2020年下半期)芥川賞にノミネートされたのは、5作品。著者5人のうち、砂川文次(30)氏は2年ぶり、乗代雄介(34)氏は1年ぶりに、それぞれ2度目の候補入り、他の3人は初の候補入りです。ミュージシャンである尾崎世界観(36)氏は、ロックバンド「クリープハイプ」メンバー(ボーカルとギターを担当)で、2016年に半自伝的な小説『祐介
』(文春文庫)がデビュー作。今回の直木賞にノミネートされたNEWSのメンバー・加藤シゲアキ(33)氏と並び、芸能界で注目を集めました。
そして芥川賞に選ばれたのは、宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』でした。“推し”とは、その人が他人に薦めたいと思うほど熱烈に好きなアイドルのこと。人気ミュージシャンやアイドルグループメンバーの作品が芥川賞・直木賞にノミネートされたのと同時に、何か時代を感じさせる選考会でした。
は静岡県沼津市出身の21歳、慶応義塾大学文学部に通う現役の大学生。2003年下半期の第130回芥川賞において、『蹴りたい背中』で受賞した綿矢りさ(当時19歳)さんと、『蛇にピアス』でW受賞した金原ひとみ(同20歳)さんに続き、史上3番目の若さでの受賞です。受賞作の『推し、燃ゆ』は、応援するアイドルがファンを殴ったことに戸惑う女子高校生が主人公。自らの背骨に例えるほど全身全霊で他者を推す(応援する)生活のゆらぎを、するどい肉体感覚で描いた作品です。ファンの意識に肉薄した作品で、刹那的に見える言葉もかなり吟味されていて、文学的偏差値が高いと評価されました。
芥川賞 受賞 「推し、燃ゆ」(文藝 秋季号) 宇佐見りん |
「母影」(新潮 12月号) 尾崎世界観 |
「コンジュジ」(すばる 11月号) 木崎みつ子 |
「小隊」(文學界 9月号) 砂川文次 |
「旅する練習」(群像 12月号) 乗代雄介 |
著者:宇佐見 りん
避でも依存でもない、推しは私の背骨だ。アイドル上野真幸を”解釈”することに心血を注ぐあかり。ある日突然、推しが炎上し――。
デビュー作『かか』が第33回三島賞受賞。21歳、圧巻の第二作。(河出書房新社)
著者:尾崎 世界観
小学校でも友だちをつくれず、居場所のない少女は、母親の勤めるマッサージ店の片隅で息を潜めている。お客さんの「こわれたところを直している」お母さんは、日に日に苦しそうになっていく。カーテンの向こうの母親が見えない。少女は願う。「もうこれ以上お母さんの変がどこにも行かないように」。(新潮社)
著者:木崎 みつ子
二度も手首を切った父、我が子の誕生日に家を出て行った母。小学生のせれなは、独り、あまりに過酷な現実を生きている。寄る辺ない絶望のなか、忘れもしない1993年9月2日未明、彼女の人生に舞い降りたのは、伝説のロックスター・リアン。その美しい人は、せれなの生きる理由のすべてとなって……。
一人の少女による自らの救済を描く、圧巻のデビュー作。(集英社)
著者:砂川 文次
元自衛官の新鋭作家が、日本人のいまだ知らない「戦場」のリアルを描き切った衝撃作。
北海道にロシア軍が上陸、日本は第二次大戦後初の「地上戦」を経験することになった。自衛隊の3尉・安達は、自らの小隊を率い、静かに忍び寄ってくるロシア軍と対峙する。そして、ついに戦端が開かれた――。(文藝春秋)
著者:乗代 雄介
中学入学を前にしたサッカー少女と、小説家の叔父。2020年、コロナ禍で予定がなくなった春休み、ふたりは利根川沿いに、徒歩で千葉の我孫子から鹿島アントラーズの本拠地を目指す旅に出る。
ロード・ノベルの傑作!(講談社)