令和4年度の芥川龍之介賞において、候補作として選考にノミネートされた全小説の一覧です。
※ 2022年度の直木三十五賞の候補作・受賞作は、【直木賞2022】のページへ!
第168回芥川賞(2022年下半期)にノミネートされたのは、5作品。5名のうち、元AV女優から新聞記者、そして社会学者で作家となり前回の第167回芥川賞に『ギフテッド』で初ノミネートされ注目を浴びた、論客としても知られる鈴木涼美(39)氏が2度目の候補入りし、他の4人は初のノミネート。グレゴリー・ケズナジャット(38)氏は、米国出身で同志社大大学院を修了し、現在は法政大学の准教授。芥川賞に米国出身者が選ばれるのは26年ぶり。佐藤厚志(40)氏は、丸善仙台アエル店勤務の書店員で、2017年に『蛇沼』で第49回新潮新人賞を受賞しています。
そして芥川賞に選ばれたのは、佐藤厚志さんの『荒地の家族』と、井戸川射子さんの『この世の喜びよ』の2作品でした。
佐藤厚志さんは、宮城県仙台市出身の40歳。東北学院大学を卒業し、現在は仙台の丸善仙台アエル店に勤務しています。井戸川射子さんは、兵庫県出身の35歳、関西学院大学の卒業です。2人とも芥川賞は、初ノミネートでした。
「ジャクソンひとり」(文藝 冬季号) 安堂ホセ |
芥川賞 受賞 「この世の喜びよ」(群像 7月号) 井戸川射子 |
「開墾地」(群像 11月号) グレゴリー・ケズナジャット |
芥川賞 受賞 「荒地の家族」(新潮 12月号) 佐藤厚志 |
「グレイスレス」(文學界 11月号) 鈴木涼美 |
著者:安堂 ホセ
第59回文藝賞受賞。衝撃のデビュー作!
東京に暮らすブラックミックスたちが企む鮮やかな逆襲劇。「実際に生きてるってこと。盗用したポルノごっこじゃなくて」、アフリカのどこかと日本のハーフで、昔モデルやってて、ゲイらしい――。スポーツブランドのスタッフ専用ジムで整体師をするジャクソンについての噂。ある日、彼のTシャツから偶然QRコードが読み取られ、そこにはブラックミックスの男が裸で磔にされた姿が映されていた。誰もが一目で男をジャクソンだと判断し、本人が否定しても信じない。仕方なく独自の調査を始めたジャクソンは、動画の男は自分だと主張する3人の男に出会い――。(河出書房新社)
著者:井戸川 射子
思い出すことは、世界に出会い直すこと。最初の小説集『ここはとても速い川』が、キノベス!2022年10位、野間文芸新人賞受賞。注目の新鋭がはなつ、待望の第二小説集。
幼い娘たちとよく一緒に過ごしたショッピングセンター。喪服売り場で働く「あなた」は、フードコートの常連の少女と知り合う。言葉にならない感情を呼び覚ましていく表題作「この世の喜びよ」をはじめとした作品集。(講談社)
母が出て行ったサウスカロライナの家には、ラッセルには分からない父の故郷の言葉が流れていた。自分は、故郷に帰るのだろうか。(群像2022年11月号)
著者:佐藤 厚志
元の生活に戻りたいと人が言う時の「元」とはいつの時点か――。40歳の植木職人・坂井祐治は、あの災厄の二年後に妻を病気で喪い、仕事道具もさらわれ苦しい日々を過ごす。地元の友人も、くすぶった境遇には変わりない。誰もが何かを失い、元の生活には決して戻らない。仙台在住の書店員作家が描く、止むことのない渇きと痛み。(新潮社)
著者:鈴木 涼美
デビュー小説『ギフテッド』に続き、芥川賞候補に選ばれた鈴木涼美の第二作。主人公は、アダルトビデオ業界で化粧師(メイク)として働く聖月(みづき)。彼女が祖母と共に暮らすのは、森の中に佇む、意匠を凝らした西洋建築の家である。まさに「聖と俗」と言える対極の世界を舞台に、「性と生」のあわいを繊細に描いた新境地。(文藝春秋)
第167回(2022年上半期)芥川賞にノミネートされたのは、5作品。著者5人のうち、高瀬隼子(33)氏は2度目の候補入り、他の4人は初の候補入りです。なお、5人の候補者全員が女性で、これは1935年に芥川龍之介賞が創設されて以来、史上初めての出来事です!。ちなみに、直木賞では3年前、第161回(2019年上半期)直木賞の候補者6人全員が史上初めて女性でした。
そして、芥川賞に選ばれたのは、高瀬隼子さん(34)の『おいしいごはんが食べられますように』です。
高瀬さんは、1988年生まれ。立命館大学文学部卒。2019年に『犬のかたちをしているもの』で第43回すばる文学賞を受賞しデビュー。芥川賞は2回目のノミネートでの受賞となりました。
「家庭用安心坑夫」(群像 6月号) 小砂川チト |
「ギフテッド」(文學界 6月号) 鈴木涼美 |
芥川賞 受賞 「おいしいごはんが食べられますように」(群像 1月号) 高瀬隼子 |
「N/A」(文學界 5月号) 年森瑛 |
「あくてえ」(文藝 夏季号) 山下紘加 |
著者:小砂川 チト
日本橋三越の柱に、幼いころ実家に貼ったシールがあるのを見つけたところから物語は始まる。
狂気と現実世界が互いに浸食し合い、新人らしからぬ圧倒的筆致とスピード感で我々を思わぬところへ運んでいく。(講談社)
著者:鈴木 涼美
歓楽街の片隅のビルに暮らすホステスの「私」は、重い病に侵された母を引き取り看病し始める。母はシングルのまま「私」を産み育てるかたわら数冊の詩集を出すが、成功を収めることはなかった。濃厚な死の匂いの立ち込める中、「私」の脳裏をよぎるのは、少し前に自ら命を絶った二人の女友達のことだった――「夜の街」の住人たちの圧倒的なリアリティ。そして限りなく端正な文章。新世代の日本文学が誕生した。(文藝春秋)
著者:高瀬 隼子
「二谷さん、わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」、心をざわつかせる、仕事+食べもの+恋愛小説。
職場でそこそこうまくやっている二谷と、皆が守りたくなる存在で料理上手な芦川と、仕事ができてがんばり屋の押尾。ままならない人間関係を、食べものを通して描く傑作。(講談社)
著者:年森 瑛
松井まどか、高校2年生。うみちゃんと付き合って3か月。体重計の目盛りはしばらく、40を超えていない。――「かけがえのない他人」はまだ、見つからない。優しさと気遣いの定型句に苛立ち、肉体から言葉を絞り出そうともがく魂を描く、圧巻のデビュー作。(文藝春秋)
著者:山下 紘加
あたしの本当の人生はこれから始まる――。九十歳の憎たらしいばばあと、面倒見が良く気弱な母と三人で暮らす小説家志望のゆめ。鬱屈を悪態に変えて己を奮い立たせる十九歳のヘヴィな日常。(河出書房新社)