平成28年度の芥川龍之介賞において、候補作として選考にノミネートされた全小説の一覧です。
※ 2016年度の直木三十五賞の候補作・受賞作は、【直木賞2016】のページへ!
第155回(2016年上半期)芥川賞にノミネートされたのは、5作品。そして芥川賞に選ばれたのは、村田沙耶香さんの『コンビニ人間』でした。
は、千葉県出身の36歳。小学生の頃から小説を書き出し、玉川大学の学生時代からコンビニエンスストアでのアルバイトを開始。2003年に、『授乳』で第46回群像新人文学賞優秀作を受賞しデビュー。2008年に『ギンイロノウタ』で第31回野間文芸新人賞受賞、2012年に『しろいろの街の、その骨の体温の』で第26回三島由紀夫賞を受賞。直木賞は、初候補での受賞ですが、受賞後もしばらくコンビニでのアルバイトを続けたそうです。受賞作の『コンビニ人間』は、コンビニでのアルバイト歴が18年になる36歳の未婚女性が主人公。子供の頃から社会の常識になじめず、結婚どころかこれまで彼氏すら出来たことがないが、マニュアルに沿ってコンビニで働いているときだけは、「世界の正常な部品」になったと安心できる。そこに婚活目的の男性が新人バイトとして入ってきて、物語が展開していく…。
「あひる」(たべるのがおそい vol.1) 今村夏子 |
「短冊流し(併録)」(新潮 1月号) 高橋弘希 |
「ジニのパズル」(群像 6月号) 崔実 |
芥川賞 受賞 「コンビニ人間」(文學界 6月号) 村田沙耶香 |
「美しい距離」(文學界 3月号) 山崎ナオコーラ |
著者:今村夏子
我が家にあひるがやってきた。知人から頼まれて飼うことになったあひるの名前は「のりたま」。娘のわたしは、2階の部屋にこもって資格試験の勉強をしている。あひるが来てから、近所の子どもたちが頻繁に遊びにくるようになった。喜んだ両親は子どもたちをのりたまと遊ばせるだけでなく、客間で宿題をさせたり、お菓子をふるまったりするようになる。しかし、のりたまが体調を崩し、動物病院へ運ばれていくと子どもたちはぱったりとこなくなってしまった。2週間後、帰ってきたのりたまは、なぜか以前よりも小さくなっていて……。なにげない日常に潜む違和感と不安をユーモラスに切り取った、河合隼雄物語賞受賞作。(KADOKAWA)
著者:高橋弘希
父の不在。愛犬の死。不妊の疑い。実家の片付け。神社の縁日。そして謎のカセットテープ。離婚した母とその娘との、繊細で緊張感ある関係を丁寧に描き出した表題作(「スイミングスクール」)。死の淵にいる娘を為すすべもなく見守る父の苦悩を描く第155回芥川賞候補作「短冊流し」を併録。圧倒的描写力と研ぎ澄まされた想像力で紡ぎ出す新鋭の飛翔作二篇。(新潮社)
著者:崔実
東京、ハワイ、オレゴンと、ジニは学校からたらい回しにされてきた。ホームステイ先で彼女は、五年前の出来事を語りはじめる。在日韓国人として生まれた、朝鮮語がわからないまま、過ごした朝鮮学校での日々。居場所を見つけられず、二つの言語の間で必死に生きるなか、あの日、テポドンが発射される。(講談社)
著者:村田沙耶香
36歳未婚、彼氏なし。コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる――。「いらっしゃいませー!!」 お客様がたてる音に負けじと、今日も声を張り上げる。
ある日、婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は恥ずかしい、と突きつけられるが……。(文藝春秋)
著者:山崎ナオコーラ
死ぬなら、がんがいいな。がん大国日本で、医者との付き合い方を考える病院小説!
ある日、サンドウィッチ屋を営む妻が末期がんと診断された。夫は仕事をしながら、看護のため病院へ通い詰めている。病室を訪れるのは、妻の両親、仕事仲間、医療従事者たち。医者が用意した人生ではなく、妻自身の人生をまっとうしてほしい――。がん患者が最期まで社会人でいられるのかを問う、新しい病院小説。(文藝春秋)
第156回(2016年下半期)芥川賞にノミネートされたのは、5作品。そして芥川賞に選ばれたのは、山下澄人さんの『しんせかい』でした。
は、兵庫県神戸市出身の50歳。高校を卒業後、倉本聰の富良野塾に入塾。35歳で「劇団FICTION」を旗揚げし現在まで主宰を務めます。小説を発表し始めたのは45歳の頃からで、2012年に『ギッちょん』が第147回芥川賞候補に、2013年に『砂漠ダンス』が第149回芥川賞候補に、同年『コルバトントリ』が第150回芥川賞候補に選ばれ、今回が4回目のノミネートで受賞に至りました。受賞作の『しんせかい』は、自身の経験を基に、雪深い地方にある演劇学校に入った青年が、故郷から遠く離れた地で俳優や脚本家を志す仲間たちと演劇を学ぶ2年間の共同生活を、イメージ豊かに描いた作品です。
「キャピタル」(文學界 12月号) 加藤秀行 |
「ビニール傘」(新潮 9月号) 岸政彦 |
「縫わんばならん」(新潮 11月号) 古川真人 |
「カブールの園」(文學界 10月号) 宮内悠介 |
芥川賞 受賞 「しんせかい」(新潮 7月号) 山下澄人 |
著者:加藤秀行
スタイリッシュな文体で、世界の真実に触れる!
七年間の勤務後、一年間の休暇を取る権利を得た僕は、肌寒いバンコクで、車椅子の彼女と出会った。世界の真実に触れる芥川賞候補作!(文藝春秋)
著者:岸政彦
侘しさ、人恋しさ、明日をも知れぬ不安感。大阪の片隅で暮らす、若く貧しい“俺”と“私”(「ビニール傘」)。誰にでも脳のなかに小さな部屋があって、なにかつらいことがあるとそこに閉じこもる――。巨大な喪失を抱えた男の痛切な心象風景(「背中の月」)。絶望と向き合い、それでも生きようとする人に静かに寄り添う、二つの物語。(新潮社)
著者:古川真人
九州長崎の漁村の島を舞台に、一族をめぐる四世代の来歴を女性の語りで綴る。ほころびていく意識から湧き出る声を聴き取り、「縫わんばならん」と語り継ぐ……「過去に、記憶に、声に、もっと深く、まっすぐ向き合っていきたい」――語り合うことで持ち寄る記憶の断片を縫い合わせて結実したものがたりは、意識の自在な流れを縦横に編み込んで人生の彩りを織り成す。(新潮社)
著者:宮内悠介
シリコンバレーで起業した30代後半、日系3世の女性レイ。80年代アメリカの小学校時代に周囲から受けた壮絶ないじめの後遺症を今も抱えながら、黒人の同僚とコンビで自社製品のプレゼンに駆り出される日々を送る。精神安定剤を手放せないレイは、大仕事を前に休暇を命じられ、旅に出る。
日系1世の祖父母が戦中に入れられたマンザナー強制収容所、レイの母がひとり暮らすリトル・トーキョー。自らのルーツを歩いたレイは、目を背けていた本心・苦しみの源泉を知った。複雑な形で差別の問題が日常にある3世の苦しみ、母親との関係。日本とは、日本人とは、私とは何か――。
VRや音楽のミキシングアプリを対比させ、問題を鮮やかに巧みに浮かび上がらせる。「マイノリティとしての私たちのこと」を問いかけた傑作。(文藝春秋)
著者:山下澄人
十九歳のスミトは、船に乗って北へ向かう。行き着いた【谷】で待ち受けていたのは、俳優や脚本家を志望する若者たちと、自給自足の共同生活だった。過酷な肉体労働、同期との交流、【先生】の演劇指導、地元に残してきた“恋人未満”の存在。スミトの心は日々、揺れ動かされる。著者の原点となる記憶をたぐり、等身大の青春を綴った芥川賞受賞作のほか、入塾試験前夜の希望と不安を写した短編も収録。(新潮社)