平成30年度の芥川龍之介賞において、候補作として選考にノミネートされた全小説の一覧です。
※ 2018年度の直木三十五賞の候補作・受賞作は、【直木賞2018】のページへ!
第159回(2018年上半期)芥川賞にノミネートされたのは、5作品。そして芥川賞に選ばれたのは、高橋弘希さんの『送り火』でした。
は、青森県十和田市出身の38歳。大学卒業後、予備校講師やロックバンドの活動を経て、2014年に『指の骨』で新潮新人賞を受けデビュー。2017年に『日曜日の人々(サンデーピープル)』で野間文芸新人賞。今回4度目の芥川賞候補で受賞に至りました。受賞作の『送り火』は、都会から青森に転校した中学3年の少年の視点で、地方の閉塞感を描いた作品。幻想を交えた繊細な描写で、時に暴力的な少年たちの関係の変化をとらえており、最近の話なのに別の時代にタイムスリップした様な感覚に誘われます。
「風下の朱」(早稲田文学 初夏号) 古谷田奈月 |
芥川賞 受賞 「送り火」(文學界 5月号) 高橋弘希 |
「美しい顔」(群像 6月号) 北条裕子 |
「しき」(文藝 夏号) 町屋良平 |
「もう「はい」としか言えない」(文學界 3月号) 松尾スズキ |
著者:古谷田 奈月
死んでは蘇る父に戸惑う男たち、魂の健康を賭けて野球する女たち──。清新にして獰猛な赤と黒の物語はいまスパークする!
『無限の玄/風下の朱』、超弩級の新星が放つ奇跡のカップリング小説集!(筑摩書房)
著者:高橋 弘希
春休み、東京から東北の山間の町に引っ越した、中学3年生の少年・歩。通うことになった中学校は、クラスの人数も少なく、翌年には統合される予定。クラスの中心で花札を使い物事を決める晃、いつも負けてみんなに飲み物を買ってくる稔。転校を繰り返してきた歩は、この小さな集団に自分はなじんでいる、と信じていた。
夏休み、歩は晃から、河へ火を流す地元の習わしに誘われる。しかし、約束の場所にいたのは数人のクラスメートと、見知らぬ作業着の男だった――。少年たちは、暴力の果てに何を見たのか――。(文藝春秋)
著者:北条 裕子
未曾有の災害に襲われた町。 高校生のサナエは、幼い弟を連れて避難所に身を寄せていた。混乱の中、押し寄せるマスコミの取材にねじれた高揚感を抱くサナエ。だがいつまでも目を背け続けるわけにはいかない、いつか訪れなければならない場所があった。
強く、脆く、そして激しく-- 喪失の悲しみと絶望の底からの、帰還の旅路。(講談社)
著者:町屋 良平
高二男子の“踊ってみた!”春夏秋冬――特技ナシ、反抗期ナシ、フツーの高校二年生・星崎が、悩める思春期を、16歳の夜を突破する。「恋」と「努力」と「友情」の、超進化系青春小説!(河出書房新社)
著者:松尾 スズキ
二年間の浮気が、キレイにばれた。別れたくない。二度目の結婚で、孤独な生活はこりごりだ。妻の黒いヒールスリッパの鼻先に、海馬五郎は土下座するしかなかった……。無条件降伏として、仕事場の解約と、毎日のセックスを、妻から宣言された。性に淡白な海馬五郎は、追い詰められて、死すら望むものの、死ねるはずもなく、がんじがらめの日々を過ごしている。
半年ほど息苦しい生活を味わった頃、海馬五郎は、フランスのエドルアール・クレスト賞の受賞を知らされる。「世界を代表する5人の自由人のための賞……?」 胡散臭いものだが、パリへの旅費と一週間の滞在費を支給してくれるらしい。飛行機が嫌いで、外国人が怖い海馬五郎も、一週間は妻とのセックスを休めるというので、その誘いにのった。これが悪夢の旅になったのである。(文藝春秋)
第160回(2018年下半期)芥川賞にノミネートされたのは、6作品。そして芥川賞に選ばれたのは、上田岳弘さんの『ニムロッド』と、町屋良平さんの『1R(ラウンド)1分34秒』でした。
は、兵庫県明石市出身の39歳。早稲田大学法学部を卒業後、会社立ち上げに参画し、後に役員に就任。2013年に『太陽』で第45回新潮新人賞を受賞しデビュー。2015年、『私の恋人』で第28回三島由紀夫賞を受賞。芥川賞にノミネートされたのは、2014年の第160回芥川賞候補『惑星』、2015年の第154回芥川賞候補『異郷の友人』に続き、今回が3回目。受賞作の『ニムロッド』は、勤務先でビットコインの採掘を担当している主人公の視点から、中絶や離婚のトラウマを抱えた恋人や、小説家への夢に挫折した同僚との日々を描いた作品です。
は、東京都出身の35歳。高校を卒業後、フリーターをしながら小説の執筆を始め、2016年に『青が破れる』で第53回文藝賞を受賞して注目を集めました。芥川賞には、2018年に『しき』が第159回芥川賞候補に選ばれ、今回が2回目のノミネート。受賞作の『1R1分34秒』は、鳴かず飛ばずの体たらくだった21歳のプロボクサーが、変わり者のトレーナーと出会って成長していく姿を描いた作品です。
芥川賞 受賞 「ニムロッド」(群像 11月号) 上田岳弘 |
「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」(新潮 9月号) 鴻池留衣 |
「戦場のレビヤタン」(文學界 12月号) 砂川文次 |
「居た場所」(文藝 冬季号) 高山羽根子 |
「平成くん、さようなら」(文學界 9月号) 古市憲寿 |
芥川賞 受賞 「1R1分34秒」(新潮 11月号) 町屋良平 |
著者:上田 岳弘
それでも君はまだ、人間でい続けることができるのか。 あらゆるものが情報化する不穏な社会をどう生きるか。新時代の仮想通貨小説!
仮想通貨をネット空間で「採掘」する僕・中本哲史。中絶と離婚のトラウマを抱えた外資系証券会社勤務の恋人・田久保紀子。小説家への夢に挫折した同僚・ニムロッドこと荷室仁。…… やがて僕たちは、個であることをやめ、全能になって世界に溶ける。「すべては取り換え可能であった」という答えを残して。……(講談社)
著者:鴻池 留衣
1980年代に海外進出を果たしたバンド「ダンチュラ・デオ」は実在したのか? 原曲を丸パクりして証明すると嘯くギタリストの喜三郎に惹かれる僕。慶大生バンドの戯れは、やがて歴史的陰謀の情報戦へと巻き込まれてゆく。フェイクがオリジナルを炙り出し、真実がウィキペディア的に編集される時代の狂騒と不気味を描く。(新潮社)
著者:砂川 文次
風が吹いている。おれは、その風を肌でしっかりと感じながら、レンジローバーの後部座席で揺られている。英国系の石油プラントを守るため、イラクの紛争地帯に進んで身を投じた武装警備員のKは、キルクークからアルビルへ伸びる国道を北上していた。荒涼とした紛争地。戦火はおさまったかに見える地で、わき上がる問いに答えは出ない。なぜこの地にやってきたのか、戦争とは何か、何が戦争を作り出すのか。敵は誰なのか。
大義なき戦争、警察国家が撤退した後の世界の風景を淡々と乾いた筆致で描き出す21世紀の戦争文学。著者デビュー作「市街戦」を併録。(文藝春秋)
著者:高山 羽根子
かつて実習留学生としてやってきた私の妻・小翠(シャオツイ)。表示されない海沿いの街の地図を片手に、私と彼女の旅が始まる。記憶と存在の不確かさを描き出す、第160回芥川賞候補作。(河出書房新社)
著者:古市 憲寿
社会学者・古市憲寿、初小説!
安楽死が合法化された現代日本。名前もあいまって、メディアで「平成(へいせい)」を象徴する人物ともてはやされる「平成(ひとなり)くん」は、時代の終わりとともに安楽死したい、と恋人・愛に告げる。愛は受け容れられぬまま二人の最後の日々を過ごすのだが――。いまの時代を生き、死ぬことの意味を問い直す芥川賞候補作。(文藝春秋)
著者:町屋 良平
デビュー戦を初回KOで飾ってから三敗一分。当たったかもしれないパンチ、これをしておけば勝てたかもしれない練習。考えすぎてばかりいる21歳プロボクサーのぼくは自分の弱さに、その人生に厭きていた。長年のトレーナーにも見捨てられ、変わり者のウメキチとの練習の日々が、ぼくを、その心身を、世界を変えていく――。(新潮社)